第■等級不可視生物事案・黒烏の衆:第三号-異天決号作戦

1.イロハの「イ」

2026年8月14日、黒烏の衆支部がかねてより調査していた見えざる偽神の会について、ファウスノミティアのアラビア語版と思しき物を所有している可能性が浮上。

同日夜から行われる集会でそれを奪取する作戦を立て、作戦遂行のため臨時特別調査隊”イヌホオズキ”が結成され、集会が行われる廃工場周辺に待機していた。

(なお記録上の会話には、重要であると判断された会話と、映像が映っていない時の会話のみを記載している)

2.新しく高き山、登攀開始。

《2026年8月14日 午後11時00分~》
 30人程度の人影が工場内へと入っていく。集団の先頭には白いローブを纏い、仮面をつけた、教祖であろう人物が見える。手にはアデロプセウドスが入っていると思われるガラスケースを持っている。
 全ての人影が工場に入り、10分ほど経過してからイヌホオズキも突入開始。突入とともにマホロバダケの胞子を散布し、信者たちを無力化、捕縛完了。外に待機していた別働隊に預けられる。
 仮面をつけていた教祖のみ影響を受けず、覚醒器ヒヒイロカネを使用した大洗隊長と激しく格闘。噂どおりヒヒイロカギリの毒で超人と化していたようである。

3.撤退知らずのケ号作戦

《2026年8月14日 午後11時50分~》
 戦闘開始から約40分経過。既にイヌホオズキの全隊員が携帯していた覚醒器は底をつき、大洗隊長の覚醒器の効果もあと数分で切れるという状況。しかし教祖もかなり消耗している様子が見られる。突然、自身の右肩を見た教祖が慌てふためき、何かを探すように周囲を見回し始める(ヒヒイロカギリが居なくなっていたのだと思われる)。
 その隙にイヌホオズキ全隊員で陣形を整え、教祖を取り囲む。が、教祖が不意にチープな笛を取りだし、勢いよく吹き始めた瞬間、騒々しい音と光とともに周辺から大量のエフェクトランスリカが飛来し、教祖を取り囲む。更に爆発するように周囲に飛散し、隊員たちの視界が奪われる。

4.俘虜の信仰に主は応えるか?

《2026年8月15日 午前0時15分~》
 外で待機していた日光侶烏支部長が、エフェクトランスリカによる目眩ましの隙に廃工場に侵入。危険性を鑑みて、最悪死んでも構わない支部長にアデロプセウドス回収を任せていたためである。
 ちょうどその時、包囲から脱した教祖が工場内の高台に上がる。手首から多量の出血が見えるため、この時点で儀式を終えていたものと思われる。高台にはアデロプセウドス入りのガラスケースが置かれており、それを抱えた教祖が発言し始める。

《2026年8月15日 午前0時20分~》
教祖:主の時代が、もうすぐ訪れる! 信仰の薄い者たちは燃える炉に投げ込まれ、真に資格ある者だけが主と共に歩む時代が!

支部長:あの血は……マズいな。既に儀式が完了している可能性がある。

隊長:だとしたら、作戦は……失敗ですか?

教祖:そうだとも、異邦人たち! お前たちの心は暴かれた! 御子を拐い、教典を奪おうなど……!

支部長:まだだ。ワタシが作戦失敗を告げることはないと思え。……御子、だと? お前の言う主とはアデロプセウドスのことでは無いのか?

教祖:(今までより苛立った様子で)違う。この方は主が遣わした御子である。主は私の夢に現れ、お告げを下さった方である。この集会も、主の御心のままに執り行われるはずだった。

隊長:支部長、もういいでしょう。

支部長:よし。タイミングを合わせろ。せーので奴に突撃する。せー……

(教祖の目の前、地上から約8mほどの地点に巨大な亀裂が走る)

5.一輪万朶

《2026年8月15日 午前01時00分~》
支部長のボディカメラの映像が乱れる。亀裂は少しずつ大きくなっていき、最終的に全長10m程の、大きく裂けた傷口のような形状になった。このタイミングでボディカメラが故障したため、しばらく録音機器による記録のみとなる。また、この時現場にいた者たちは「笑い声が響いていた」と証言しているが、録音された音声では確認できなかった。

隊長:馬鹿な……!?支部長、これは……。

支部長:狼狽えるな。イヌホオズキは離脱しろ。後はワタシが何とかする。……してみせる。

隊長:しかしっ。……わかりました。どうかご無事で。撤退!

(複数人の駆け足な足音)

(金属音のような音が響く。水中で鳴っているようなくぐもった感じがある)

6.烈風は静謐に、回天は無く。

《2026年8月15日 午前01時30分~》
(声色の違う支部長の声):81年振りの再会を祝して。忘れたことは無いだろう。お前のちっぽけで愚かな正義が、お前にとって最も大切な者を奪った日を。

支部長:(驚いた様子で)何だ、これは。ワタシが発したのか?

支部長の声:遠くの地からの来訪を祝して。覚えているだろう。次は、お前たちが守り抜いた大切な場所が奪われる日が来ると。

支部長: ……それが今、この瞬間だとでも言うのか? 81年も前のことをまだ根に持っているのか、愚弄する物。

支部長の声:どこを見ていた。視線のない男よ。お前は見るべきだ。われと異なる無数の異形なるわれ、それは確かにわれであったのだから。決して忘れるでないぞ。われこそは嘲笑する愚物、█████████(聞き取れない)なれば。

7.玉砕

《2026年8月15日 午前01時35分》
ボディカメラが復活。裂け目の大きさは先程より5倍も大きくなっているように見える。裂け目の奥に広がる空間は不規則に明滅している。教祖の姿は無い。支部長は頻りに頷き、見えない何かと会話しているように見える。

支部長:(抑揚のない声で)そうか。そうか。そうか。ずっと見ていたのか。ここも無数の墓標の一つでしかないのか。そうか。じゃあ誰なんだ? お告げとやらは誰の仕業なんだ。ワタシたちは本来どうなる予定だった。何も知らない分からないじゃないか変に自覚していたから招かれた終末なのか予定調和なのかこうなることを望んでいたのかだからワタシを選んだのかなぜあんなことをワタシに出来ることは全てやった許してくれ黒羽あぁ耳元で囁くなうるさいうるさいうるさい……

(支えを失ったように、支部長が倒れる)

支部長:すまない、皆。作戦は失敗した。

(立ち上がった支部長が裂け目に向かって走りだし、映像が途絶える)

支部長の行方は現在も分かっていない。しかしながら、支部長が愚弄する物を食い止め、世界の滅亡を回避できたと考えることは当然ながらできない。現在も裂け目は拡大を続けており、そのうちに世界を呑み込むと思われる。既にこの国も国土の█割を失っているのだから。

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